朝日放送テレビの人気番組『探偵!ナイトスクープ』で放送されたある回が、「ヤングケアラー(子どもの家事・育児負担)」と関連して大きな話題になり、番組側が対応に追われました。この番組では、小学6年生(12歳)の長男が弟妹5人の世話や家事を日々手伝っている家庭の様子が取り上げられ、お笑い芸人のせいやさんが「長男役」を体験し、一日を過ごす内容でした。この回を視聴したSNSユーザーなどを中心に、「この子はヤングケアラーではないか?」「家庭内で子どもに過度な負担をかけているのではないか」という強い指摘や批判が広がりました。両親に対して「育児放棄だ」といった厳しい非難も寄せられ、物議を醸しました。この放送が問題視された背景に、番組制作側に大きな問題があったと思います。番組公式サイトでは、「父親が家にいて家事・育児を担っている日常を、より分かりやすく伝えるため、子どもだけで過ごす場面を演出した」としていて、過剰演出であったようです。おそらく、いま、社会的にヤングケアラーが問題になっていることへの理解が不足なままに演出、放送されてしまったのではないかと思います。
■演出上の問題
番組の終わりころ、せいや探偵が帰ろうと扉を閉めたとたんに、母親が長男に指示するように「米炊いて、7合!」という声が入りました。これも編集上の構成・演出による表現だと明かされています。番組側から「ここでこのように大声を出してください」という指示があったのでしょう。番組は、取材対象者の実際の生活をそのまま示したものではないことを示す例だと思います。依頼文そのものも番組用に構成され、元の文とは異なる表現に改稿されていたことが報じられています。これらの編集・構成の仕方が、「実際以上に子どもばかりが負担しているように見えた」とされ批判されています。番組に出演した家族のプライバシー侵害や誹謗中傷の発生などは番組側の責任だと思います。
その後、ABCテレビ(朝日放送テレビ)社長が会見を開き、騒動について説明と謝罪を行いました。その中で、社長は、放送内容が、編集・構成の影響で「長男が家事・育児ばかりしているように見える印象を与えてしまった」と認め、「ヤングケアラーなど社会的な問題を意識して取り上げたものの、デリケートな内容であり慎重な対応が必要だった」と振り返り、番組側として深く反省していると謝罪をしました。
今回の騒動は、バラエティ番組で「社会問題」とされる状況を扱う際の取材・編集のあり方についても改めて議論を呼んでいます。放送内容そのものをどう捉えるか、取材・演出と社会問題の扱い方について今後の議論が続いています。これを考えるにあたっては、ヤングケアラーとは何か、その実態と対策について知っておくことが必要だと思います。
■ヤングケアラーとは
「ヤングケアラー」という言葉を、最近ニュースや学校の話題で耳にすることが増えてきました。ヤングケアラーとは、家族の介護や世話、きょうだいの育児などを、本来は大人が担うべき年齢にもかかわらず、日常的に引き受けている子どもや若者のことを指します。本人は「当たり前のことをしているだけ」と思っていて、周囲も気づきにくい――それが、この問題の一番の難しさです。
■実 態
厚生労働省において文部科学省と連携しておこなわれた「ヤングケアラーの実態に関する調査研究」では、公立中学 2 年生の 5.7%(約 17 人に 1 人)、公立の全日制高校 2 年生の 4.1%(約 24 人に 1 人)が「世話をしている家族がいる」と回答しています。1 学級につき 1~2 人のヤングケアラーが存在している可能性があることになります。また、世話をしている家族が「いる」と回答した中高生のうち、約1~2割が、平日1日7時間以上を世話に費やしているということです。ヤングケアラーかどうかに対して「あてはまる」と回答した中高生は、「 宿題をする時間や勉強する時間が取れない」、「睡眠が十分に取れない」、「友人と遊ぶことができない」、「自分の時間が取れない」と回答した割合が高くなっているとのことです。
■対 策
実は日本では長い間、ヤングケアラーは法律の中ではっきり位置づけられていませんでした。しかし近年、その状況が少しずつ変わってきています。
児童福祉法という法律は、18歳未満の子どもを守るための法律で、状況によっては行政が介入し、保護や支援を行うことになっています。ただ、ヤングケアラーの多くは「虐待」とまでは言えないグレーな状態にあります。このため、強制的な介入ではなく、寄り添う支援を可能にする仕組みが重要になりました。
2009年に、子ども・若者育成支援推進法という法律ができました。子ども・若者が健やかに成長・自立するための支援施策を国・自治体に求めたものでした。その後、2024年にこの法律が改正され、「家族の世話を過度に行っている子ども・若者」が、国や自治体が支援すべき存在であることが法律に明記されました。これは「困っているなら助けよう」という気持ちを、行政が動くための正式な根拠にした、という点でとても大きな意味があります。
ただし、この法律は「支援しなければならない」と強制するものではなく、「支援に努める」という“努力義務”が中心です。つまり、実際にどんな支援が行われるかは、自治体の取り組みに委ねられています。
■大阪の例
大阪府や大阪市では、ヤングケアラー向けの専用相談窓口を設けています。電話やメールで相談でき、「自分がヤングケアラーかどうか分からない」という段階でも利用できます。相談内容は、介護や家事の負担だけでなく、学校生活、進路、就職、生活費の不安など幅広いものです。
ここでは、「話を聞いて終わり」ではなく、必要な制度につなぐ支援が行われています。介護保険、障害福祉、生活支援、就労支援など、本人や家族が利用できる制度を整理し、場合によっては役所の手続きに同行してくれます。これは、一人で抱え込みがちな若者にとって、非常に心強い支援です。
大阪市では学校現場での取り組みも進んでいます。スクールソーシャルワーカーが、生徒の生活背景に目を向け、必要に応じて福祉機関と連携しています。ここで重要なのは、「家庭の問題だから」と見過ごさず、子どもの学ぶ権利や成長の機会を守るという視点です。
皆様の周囲でヤングケアラーと思われる子どもがいませんか。
この問題を社会でもっと考えていきましょう。

